院長ご挨拶
心のこもった質の高い医療の実践
当院が立地する利根沼田医療圏は人口9万人足らず、全群馬県人口の5%に満たない人々が県の28%を占める広大な地域に生活しております。大部分は山間部であり、医療資源は沼田市近郊に集中しているため、特に山間部に住む人々にとっては医療機関へのアクセスが問題となります。患者さんが圏域外の医療機関にかかることが少なく、自足率が高い医療圏といわれています。
当院はその中で規模が小さいながら群馬県がん診療連携推進病院に指定されており、特に胃癌、大腸癌、乳癌の治療を多く手掛けております。従来の外科的治療のみならず、内視鏡的治療や腹腔鏡補助下の手術など、適応があれば患者さんの負担が少ないこうした治療も積極的に実施しております。また、複数の治療方法を組み合わせたがんに対する集学的治療にも対応できます。また救急告示病院であり、24時間体制で救急患者を受け入れております。このように当院の地域における使命はまずがん治療と救急医療であると考えております。
当院はこれまで主に急性期の疾患に対して医療を提供してきました。しかし平成28年、新しい病棟の完成を機に機能を見直し、それまで3病棟全てで取り扱っていた急性期治療を2病棟に集約し、1病棟を回復期の病棟に切り替えました。正式には地域包括ケア病棟と称し、入院を要する急性期の治療は一段落したものの体力面などで退院できない患者さんが体力の回復を目指す病棟です。今後沼田地域の全人口は減少するものの高齢化率は増加すると予測されております。住民の高齢化に伴い、急性期治療が終了してもすぐには自宅に戻れない患者さんが増えることを勘案して病棟機能を転換しました。例えば手術目的で入院し治療が一段落した後にリハビリが必要となった場合、他の医療施設に転院することなく同じ病院内で治療が継続できるよう、この地域包括ケア病棟を活用して院内で完結できる医療を目指します。
必要に応じて近隣の医療機関とも連携し、可能な限り地元の患者さんに対する治療は地域内で完結したいと思っております。幸い沼田地域には医療機関同士をインターネット回線でつなぎ、ネット上で患者さんの画像データを共有できるシステムが構築されております。必要時には他院の患者さんの情報を受け取ったり、逆に他院に患者さんの情報を送ったりして、院内外の担当医同士が遠隔で診療相談しております。医療資源が不足している地方部における医療連携の重要性を痛感することもしばしばあり、今後も周囲の医療機関と緊密な関係を保って地域で完結できる医療を維持してゆきたいと考えております。
患者さんの治療に携わるのは医師だけでは不十分です。病院で働く多くの職種がそれぞれの専門性を発揮させることで、患者さんに対してより良い医療を提供することができます。一人の患者さんに対して複数の職種の医療従事者が連携して治療やケアにあたることをチーム医療と呼び、当院でも高い専門性を修得した認定看護師が中心となってチーム医療を実践しております。今後も患者さん中心の心のこもった医療に磨きをかけるために認定看護師を積極的に養成し、チーム医療を推進してゆきたいと思います。
忘れてはならない当院の使命の一つにへき地医療が挙げられます。当院は昭和45年よりへき地巡回診療を行ってまいりました。これは利根沼田の山間へき地の無医地区を4コースに分け、各コース毎月1回医師看護師が巡回診療車に同乗して出向き、へき地に暮らす主に慢性疾患の患者さんの診療を行なうものです。その地道に継続してきた活動が評価されて平成17年には第18回人事院総裁賞を受賞しました。テレビのニュースでも何回か取り上げられており、ご覧になった方もあると思います。実施にあたりいくつか問題を抱えてはおりますが、当院に与えられた使命として可能な限り継続してゆきたいと思っております。
その他、当院は災害拠点病院や第2種感染症指定医療機関でもあります。DMAT(災害派遣医療チーム)1隊が登録されており、東日本大震災の時には出動しました。また4階病棟には地域で発生した感染症患者を収容するため、陰圧機能を備えた感染症用の個室を4室完備しております。
このように、規模は小さいながら当院の使命はがん診療、救急医療などの急性期医療、回復期医療、へき地医療、災害医療、感染症への対応など多岐にわたります。限られた医療資源を有効に活用し、チーム医療を積極的に導入し、周囲と緊密に連携して地域医療に貢献してゆきたいと思っております。皆様のご支援、ご鞭撻を宜しくお願い申し上げます。